開発ノート

個人開発でサブスクをやめた話——「使うぶんだけ」の時間パック

個人開発でサブスクをやめた話——「使うぶんだけ」の時間パック

個人開発のマネタイズをどう設計するか。半年かけて一人でつくった Hiroi(拾い)で、いちばん長く迷ったのがここでした。そして出した答えが、サブスクなし。最初の1時間は無料、そのあとは「使うぶんだけ」の時間パック(¥600〜)で、買った時間は失効しない——という形です。

定期課金は、個人開発にとっていちばん素直な収益モデルです。毎月の売上が読めるし、事業として安定する。それでも選ばなかった理由を、正直に書いておきます。使う側として料金を見比べている人にも、これから値付けを考える個人開発者にも、何かの参考になればと思います。

サブスク疲れは、もう実感になっている

まず、自分がいち利用者として感じていること。サブスクが増えすぎました。

動画、音楽、ストレージ、メモ、天気アプリまで月額。一つひとつは数百円でも、明細に並ぶと「毎月の請求が増えていくのがしんどい」。使っていない月でも引き落とされ、解約を忘れれば静かに払い続ける。この、じわじわ効いてくる負担感——サブスク疲れ——を、自分の作るアプリでもう一つ足すのが、どうしても気が進みませんでした。

特に語学や翻訳の道具は、「今月はあまり使わなかったな」という月が必ずあります。そういう月に、使っていないのに請求が来る。その一回の小さな後ろめたさが、アプリそのものへの印象を静かに悪くしていく。それを自分の手でつくりたくはなかった。

会議は「来るときは来る、来ないときは来ない」

もう一つ、この道具の性質があります。会議には、波があるのです。

海外チームとのやり取りが続く週もあれば、社内会議ばかりで英語を一言も使わない月もある。出張の前後だけ集中して使い、そのあと数週間ひらく——そういう使われ方をします。使用が一定しないものに、一定額を毎月請求するのは、どう考えてもかみ合っていない。

使う量がばらつくなら、料金もばらつくべきです。たくさん使った月はそれなりに、使わなかった月はゼロ。従量課金——使ったぶんだけ払う——のほうが、この道具にはずっと正直だと思いました。ガスや電気と同じで、蛇口をひねったぶんだけ払う。それが会議という不定期な相手には合っている。

だから「使うぶんだけ」、そして失効させない

こうして、時間パックにしました。時間を前払いで買い、実際に翻訳を動かした秒数だけ減っていく。使わなければ減らない。

ここで一つ、あえて変わった決め方をしています。買った時間は、失効しない。

多くの「クレジット制」アプリは、買った分に期限をつけます。数か月で消える、月をまたぐと繰り越せない——実質、使い切りを急かすサブスクです。でも、期限で消える残高は、結局「使わなきゃ損」というプレッシャーを生みます。それはサブスク疲れと地続きの、別の焦りでしかない。

だから失効なしにしました。半年後にまとまった会議が来たとき、前に買った時間がそのまま残っている。急いで使い切る理由はどこにもない。これは単なる仕様ではなく、「あなたのペースでいい」という、こちらからの姿勢の表明のつもりです。買い切りの、買ったものは自分のものという安心を、消耗品のクレジットにも持ち込みたかった。

正直に言うと、サブスクなしは事業として不利です

きれいごとだけ書くのはフェアではないので、裏側も。

サブスクをやめるということは、毎月自動で入ってくる売上(MRR)を手放すということです。事業の予測は立てにくくなるし、人に見せるグラフとしても弱い。個人開発で、貯金を切り崩しながらやっている身には、本当は定期課金のほうが安全でした。

それでも従量課金・失効なしを選んだのは、そのぶんを「信頼」で受け取りたかったからです。使っていないのに請求されない、買った時間が消えない——その小さな安心の積み重ねが、長く使ってもらえる理由になると信じています。短期の売上の読みやすさと、長期の信頼。どちらかしか取れないなら、一人でつくっている今は後者を選ぶ。これは、僕が引き受けると決めたトレードオフです。

(この「引き算で選ぶ」感覚は、時間をかけた機能を削った話や、翻訳が無料になっても残るものとも地続きです。)

技術的な補足を一つ。iOS の消耗型課金には「復元」がありません。放っておくと、機種変更や再インストールで残高が消えてしまう。それは論外なので、残高は Apple アカウントに紐づけてサーバー側にも控えています。新しい iPhone に変えても、入れ直しても、買った時間はちゃんと戻ってくる。失効させないと決めた以上、そこは絶対に守るべき約束でした。

Hiroi の課金は、こう決めました

まとめると、Hiroi にサブスクはありません。最初の1時間は無料。そのあとは ¥600 からの時間パックで、実際に使った秒数だけ減り、買った時間は失効しない。音声は録音せず、文字起こしも学習デッキも端末の中だけ。使うぶんだけ、あなたのペースで。

個人開発のマネタイズで、サブスクなしという選択は、たしかに遠回りかもしれません。それでも、使う人が料金に対して感じる後ろめたさをゼロにできるなら、その遠回りには意味がある——今はそう思っています。

よかったら hiroi.app をのぞいてみてください。X(@hiroi_app)でも、こうした裏側をぽつぽつ書いています。

払った時間が、ちゃんとあなたのものであり続けますように。

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